事件番号:JP2015-0007

                裁 定

  申立人1:
  (名称)ソフトバンクグループ株式会社
  (住所)東京都港区東新橋1-9-1
  申立人2:
  (名称)福岡ソフトバンクホークス株式会社
  (住所)福岡市中央区地行浜二丁目2番2号
  登録者:
  (氏名)金 南希
  (住所)東京都足立区綾瀬3-24-6-302  

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイ
ン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処
理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて
審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「SOFTBANKHAWKS.JP」の登録を申立人1であるソフトバンクグルー
プ株式会社に移転せよ。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「SOFTBANKHAWKS.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。 
4 当事者の主張
 a 申立人ら
 (1)申立人らについて 
 申立人1は、1981年9月の設立から1990年6月まで「株式会社日本ソフトバン
ク」(英文名SOFTBANK CORP. JAPAN)を商号として使用し、1990年7月に商号を
「ソフトバンク株式会社」(英文名 SOFTBANK CORP.)に変更し、2015年7月に商
号を「ソフトバンクグループ株式会社」(英文名 SoftBank Group Corp.)に変更し(資
料3)、情報産業分野の事業会社、野球事業など多岐に亘る事業分野の子会社を管理する純
粋持ち株会社である。
 申立人2は申立人1の100%子会社であり、プロ野球球団である福岡ソフトバンクホ
ークスを保有している(資料5)。
(2)登録者のドメイン名が、申立人らが権利又は正当な利益を有する商標その他表示と
同一または混同を引き起こすほど類似していること
 申立人1は、「SoftBank\HAWKS\FUKUOKA」の商標(商標登録第4951013
号「申立人商標(ア)」)をはじめ「SOFTBANK」「ソフトバンク」「=SoftBank」の商標
の商標権者である(資料6~11)。
 申立人2は、申立人1から契約により許諾をうけて申立人商標(ア)を球団スローガン、
ロゴマーク、ユニフォームその他の申立人2の商品や役務に関連して使用している。申立
人2は、「Hawks」を含む商標の商標権者であり(資料13~17)、また
「SOFTBANKHAWKS.CO.JP」をドメイン登録し、当該ドメインを球団オフィシャル
WEBサイトのドメインとして使用している(資料12)。
 登録者は「SOFTBANKHAWKS.JP」というドメイン(以下「本件ドメイン」)を株式会
社日本レジストリサービスに登録している(資料2)。
 申立人らによれば、申立人商標(ア)は球団のロゴマークとして広く世間に知られ、ま
たプロ野球は日本で国民に親しまれるスポーツであるところ、チーム名やユニフォームに
申立人商標(ア)を付すことによりその商標が広く認知され、また申立人2が保有する球
団が、2011年及び2014年に日本一になっていることも加えて申立人商標(ア)及
びその他の商標の著名性は極めて高いものである。
 そして、登録者の本件ドメインと申立人商標(ア)及び申立人2のドメインとの同一性
または類似性についてみると、本件ドメインの自他識別力を有する部分は
「SOFTBANKHAWKS」であり、これは申立人1の商標「SoftBank\HAWKS\
 FUKUOKA」から球団本拠地の「FUKUOKA」を省略しただけのものであるから、本件ド
メインの主たる部分は申立人1の商標および申立人2の登録ドメイン名と外観および称呼
が同一または類似であり、誤認や混同を惹起させる。
(3)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 申立人らは、登録者との間に一切の資本関係、取引関係、業務提携関係はなく、登録者
に対して本件ドメインや申立人商標(ア)を含む他の商標の使用を許諾した事実はない。
また、登録者は本件ドメインと同一または実質的に同一と認められる登録商標を有しては
おらず、本件ドメインと同一の名称で一般に認識される事業を行っていたとの事実も認め
られない。
 登録者は、本件ドメインを使用してWEBサイトを設定しているが(資料25)、当該サ
イトは株式会社読売巨人軍が設定するプロ野球球団「読売巨人軍」(GIANTS)のオフィシ
ャルWEB サイト(資料26)と外観、構成が全く同一であり、消費者にあたかも申立人
2がGIANTSのWEBサイトを設定しているかのような誤認混同を生ぜしめている。登
録者は、本件ドメインアドレスのフレームのページを外枠とし、フレーム転送により
GIANTSサイトを表示させているようであるが、登録者の使用態様は公正な使用とはいえ
ない。従って、登録者は、本件ドメインについて権利または正当な利益を有していないし、
その使用は公正な使用でない。
(4)本件ドメインが、不正の目的で登録または使用されていること
 登録者が本件ドメインを使用して設定するWEBサイトは,第三者のWEBサイトをフレ
ーム転送等の手法により表示したものであり、登録者が正当な目的をもって設定している
ものではない。登録者は、本件ドメインのほか「SOFTBANKHAWKS.COM」を使用した
WEBサイトで「You can buy this domain showing this Webpage if your price is ok.
 mirakuya@gmail.com 82-10-3040-1234」と記載しており(資料27)、当該ドメインを譲
渡による金銭的利益を獲得する目的で登録したことは明らかである。
 登録者が本件ドメインを取得した2004年11月5日に先立つ2004年10月に、
「ソフトバンク ダイエー球団買収名乗り」(資料19)がマスメディアを通じて報道され
ており、申立人1の社名と買収される球団名とが組み合わされて「SOFTBANKHAWKS」
として使用されることは周知であり、登録者は上記の各種報道を見た上で、本件ドメイン
を不正の目的をもって登録したものと容易に推察される。

 従って、申立人らは、ドメイン名登録の申立人1への移転を請求する。

 b 登録者
  登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果
に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人らが次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し
ている。
 (1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と
     同一又は混同を引き起こすほど類似していること
 (2) 登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 (3) 登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること
 そして、本件において登録者は答弁書を提出していないところ、規則第5条(f)は、
 「もし登録者が答弁書を提出しないときには、例外的な事情がない限り、パネルは申立
 書に基づいて裁定を下すものとする。」と規定する。
  したがって、上記(1)から(3)の要件に関する申立人らの主張が不十分である又
 は各要件該当事実の存在を否定する事実が認められるといった例外的な事情がない限り、
 申立人らの主張に従い、本件ドメイン名登録移転の裁定を下すことが相当である。

 以下、検討する。
 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
  本件ドメイン名の「SOFTBANKHAWKS. JP」と申立人商標(ア)の「SoftBank\
HAWKS\FUKUOKA」の商標とを比較する。
  本件ドメイン名中「JP」は単に国別コードにすぎないため、本件ドメイン名においては
「SOFTBANKHAWKS」の部分が要部となる。
  一方申立人1が所有する「SoftBank\HAWKS\FUKUOKA」の商標中「FUKUOKA」
の部分は球団本拠地の地名である「福岡」を欧文字で表した部分であるから、申立人1が
所有する商標の要部は「SoftBank\HAWKS」の部分といえる。
 してみると、本件ドメイン名と申立人1の登録商標は、外観において、二段書き及び一
部大文字と小文字の差異があるものの、同一の称呼「ソフトバンクホークス」を生じる。
 従って、両者は混同を引き起こすほど類似していると認められる。

 (2)権利又は正当な利益
  申立人らは、登録者との間に一切の資本関係、取引関係、業務提携関係がなく、申立人
 らが登録者に対して本件ドメインや申立人商標の使用を許諾した事実はない、と主張する。
 また申立人らが調査した限りでは、登録者が本件ドメインと同一または実質的に同一の登
 録商標を有しているという事実はなく、本件ドメインと同一の名称で事業を行っていたと
 いう事実も認められないと主張する。
  これらの主張に対して、登録者は答弁書を提出しておらず、また提出されたすべての証
 拠を検討しても、登録者の本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益の存在を裏付け
 る事実や、権利又は正当な利益の不存在を否定する例外的な事実は見当たらない。
  従って、登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないと認め
 られる。
 (3)不正の目的での登録及び使用
  登録者は本件ドメイン名を2004年11月5日に登録している(資料2)。これは、ソ
 フトバンクが福岡ダイエーホークス球団の買収を表明したことが各種マスメディアに報道
 された2004年10月より後である。買収球団名が「SoftBank」と「HAWKS」を組み
 合わせた名称となることは容易に予想がつくことであり、登録者は上記各種の報道に接し
 た後に本件ドメイン名を登録したと考えられる。
  また登録者は、本件ドメインを使用して第三者であるプロ野球球団「読売巨人軍」
(GIANTS)のサイトを表示するよう設定しているが、この事実から、登録者が自らの商
 品またはサービスの提供を目的として本件ドメイン名を登録したものではないと推認でき
 る。
  なお、登録者は、本件ドメインと同一の要部を有する別のドメイン名
 「SOFTBANKHAWKS.COM」を使用したWEBサイトにおいて、「You can buy this
 domain showing this Webpage if your price is ok. mirakuya@gmail.com 82-10-3040-
 1234」と記載しており、当該ドメインを譲渡による対価を得るために登録したものと見て
 取れる。
  上記を総合すると、登録者の本件ドメインの登録は、「登録者が申立人または申立人の競
 業者に対して、当該ドメイン名に直接かかった金額を超える対価を得るために、当該ドメ
 イン名を販売、貸与又は移転することを主たる目的として、当該ドメイン名を登録または
 取得しているとき」に該当するものと言わざるを得ない。
  したがって、登録者の本件ドメイン名の登録は、不正の目的に基づくものと認められる。
 6 結論
  以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
 「SOFTBANKHAWKS. JP」が申立人1の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、
 ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目
 的で登録または使用されているものと判断する。
  よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「SOFTBANKHAWKS. JP」の登録を申立
 人1のソフトバンクグループ株式会社に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

    2015年12月1日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                               齊藤純子
              単独パネリスト

 
別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      2015年9月18日(電子メール)及び9月24日(書面)
(2)手数料受領日
      2015年9月18日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2015年9月25日  JPRSへ照会
      2015年9月25日  JPRSから登録情報の回答
      回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRSに
        登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2015年9月29
  日に、申立人に履歴事項全部証明書の追完が必要と判断して、その旨を申立人に通知
  し、同年10月1日に受領した。センターは、同年10月1日に、申立書が処理方針
  と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
      1) 申立書送付日(手続開始日) 2015年10月5日(電子メール及び郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2015年11月4日
(6)手続開始日  2015年10月5日
      センターは、2015年10月5日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、
  JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。但し登録者宛て郵送分に
  ついては、二つの住所に送付したが、一方は「あて所に尋ねあたりません」として、
  もう一方は保管期限満了により返送された。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2015年11月5
  日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子メー
  ルと郵送にて申立人及び登録者に送付した。但し登録者宛て郵送分については、保管
  期限満了により返送された。
(8)パネリストの選任  2015年11月11日
      申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2015年11月13日
      パネリスト:弁理士 齊藤 純子
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2015年11月11日  JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
   申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知した。但し登録者宛郵送分について
  は保管期限満了により返送された。
      裁定予定日:2015年12月1日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2015年11月11日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2015年12月1日  審理終了、裁定。